‡〜真・恋姫†無双〜‡

『緋姫無双』一章
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魏アフター

第一章【永久に我と共にあり】〜胡蝶



魏アフター

第一章【永久に我と共にあり】〜胡蝶の夢をもう一度〜





 もしかしたら…それは、夢だったのかもしれない。

 ここで起こったこと

 作り上げてきたもの、何もかも。

 全てが、儚い夢だったのかもしれない。

 だとしたら、それはとても残酷な夢である。

 出来れば誰もが永遠に見たくないと思うような夢。

 それが今、現実となってここにある。

 突然、私の前から姿を消した愛しい人。

 出会いも、そして別れも唐突だった。

 例えるのなら、そう……彼は、胡蝶の夢。

 脆く、長くは続かない。

 一時の、奇跡。
 一時の温かさ。
 一時の優しさ

 あぁ、なんて儚い夢だったのだろう。

 私の人生に降りかかった、残酷で…とても理不尽な夢を恨む。

 もし、永遠に続いてさえすれば。
 
 私はもっと違う心持ちだったのだろう。

 今回の、成都旅行だってそうだ。

 彼が居ないと始まらないのに。

 成都で開かれる大切な祭りは4日後に迫っていた。
 
「……計画がぶち壊しじゃないの」

 彼が消えたあの日から何も変わらない部屋を見渡し、そう呟いた。

 何処からか迷い込んだのか、一匹の揚羽蝶がひらひらと舞っている。

 そこに人の気配は、ない。

 唐突に主を失ったその部屋は、彼がそこに存在していた軌跡を今も証明し続けている。ただ、それだけ。

 だらしなく乱れた布団。

 乱雑に積まれた未解決の書類。

 部屋の隅に無造作に投げ捨てられた『携帯電話』と呼ばれる彼の私物。

 擦りきれて表紙の読めなくなった生徒手帳。

 まるで、時を止めたかのように静まり返った彼の居住空間全て。

 ひとつ、ひとつ……またひとつ。

 彼の寝室に置かれた物を見て回る。

 まるで彼の面影を探すかのように。

 いつからだったかはもう覚えていないが、それが私の日課になりつつあった。

「…そんなことをしても、彼はもう、帰ってこないというのにね」


 深い悲しみと、切なさを含んだ感情が私の中を駆け巡る。


 ……1年。

 彼が居なくなってから過ぎていった無意味な時間。

 それはとても長い時間だ。

 たった一人、傍に居てくれさえすれば…私にとって、幸せなものとなる筈だった…大切な、大切な時間だ。

 ただ、失ってしまったものは大きくて。

 あまりにも大きすぎて。

 取り戻すことが出来ないことが、何より悔しくて。

「…?」

 ふと頬に感じる冷たさに、私は自分が泣いていたことに気がつく。

「…無様ね、曹孟徳」

 今だって、溢れる涙の奔流を止めることさえできやしない。

「本当に、無様ね…」

 そこに覇王たる自分の面影はなかった。

 在るのは一人の少女の姿。

 ――いっそ、忘れることができたらよかったのに。

 泣きながら思ったこともあった。

 ――死のうとさえ思ったこともあった。

 彼の居ない世界に生きる価値など無いと。

 ただ。

 忘れようとする度、命を絶とうとする度に蘇る彼の姿。

 抱き締められた時に感じた…暖かな彼の温もり。

 困った時によく浮かべていた表情。

 私が何より好きだった、優しい笑み。

 大きな手のひら。

 邪気の無い瞳。

 人懐っこく、それでいて紳士的な仕草。

 重ねた唇の柔らかさ。

 彼の一挙一動がありありと私の中に浮かんでくる。

 私は…こんなにも、彼のことを愛していたのに。

「忘れることなんて…できる筈もないのにね…」

 心の中では、誰よりも愛していたのに。

 結局…最期まで、伝えられなかった。

 『貴方に愛して欲しい』と。

 私の望みは、貴方と死が2人を引き裂くまで、愛し合い続けることであると。

 ……私は不器用で、意地っ張りで。

『貴方を愛している』

 言えなかった。

 この一言だけでもいい。

 もし…世界の何処に居るやも知れぬ貴方に、この声が届くのならば。

 しかし、それすら叶わない。










 ――貴方に会いたい。











 ――貴方と言葉を交わしたい。










 ――優しく、抱きしめて欲しい。










 ――ただ、私だけを愛して欲しい。











 それが私の心の深くに隠された本心。

 胸の奥深くにしまい込んでいた、小さな小さな本当の望み。


 今、私を支配するどうしようもない胸の痛みの正体。

 ……張り裂けそうな程に私を深く侵す後悔の念。


 北郷一刀。

 私が生涯初めて、そして最後に愛した、たった一人の異性。

 …貴方が居ないだけで。
 私の小さな世界は色を無くしてしまう。

 忘れられる筈もない。

 貴方は、別れ際に、私を寂しがり屋だと言った。

 ……そうだとも。

 認めよう、私は寂しがり屋だ。

 それも筋金入りの。







「だからこそ…」






 ――貴方が、私のことを本当に、誰よりも、他の誰よりも心の底から愛していたのなら










「傍に…居てほしかった」







 ――私が寂しがり屋だと誰よりもわかっているのなら。理解してくれているのなら。










「自分勝手に…消え、ないでよ…」












 ずっと私の隣に居て欲しかったのに。










 永遠に、その命、そしてこの命が燃え尽きるその時まで。











 私を愛して欲しかったのに。












「…ねぇ、一刀」










 ――私は貴方を心の底から愛し、それと同じくらい貴方に愛されたいと願っていたのに。


「もうすぐ……お祭りがあるの」

 気が付けば語りかけていた。

「それは、この大陸に古くから伝わる、10年に一度の大切なお祭りでね」

 まるで、彼がそこに居るかのように。

「その日に…愛を誓い合った恋人同士は、永遠に幸せになれるっていう伝説があるの」

 女性にとって一番大切な日を、最愛の人と過ごしたいと思うことが、果たして願ってはいけないことなのだろうか?

「滑稽ね、ほんとうに」

 そんなことを思う自分が。

 ……もう、彼は帰ってこないと分かっているのに。

 理解している筈なのに。

「でも、逢いたい…あなたに…あいたい…」

 溢れ落ち、服を濡らす大粒の涙。

 その涙は、彼への強い愛。

 純粋な想いの結晶。



















 大好きで、大好きで、大好きで仕方のなかった彼にもう一度逢いたい。



 真っ白で、ひたむきな。

 一人の少女の小さな願い。

 それは、この世界に作用することのできる、たったひとつの鍵。

 その鍵は今、優しい世界の鍵穴をゆっくりと回していく。































「どうやら、お呼ばれのようですね〜♪」

 ……ひとつの願いを基盤に、動きを止めた外史の歯車は今再び噛み合い、そして動き出す。

 儚く消えた胡蝶の夢を、今再び蘇らせる為に。

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